
本誌・週刊ポスト前号(2025年3月10日発売号)で特集した“財務省解体”を求める声がさらに高まっている。橋本龍太郎内閣が進めた中央省庁再編(橋本行革)では、大蔵省から金融監督庁(現在の金融庁)を分離する「財政と金融の分離」が進められ、大蔵省は「財務省」に“格下げ”された。いわば「第一の解体」だったが、その後、財務省は完全に復権。金融庁長官、内閣府事務次官、環境省事務次官など各省庁のトップに財務官僚を送り込み、霞が関に“植民地”を広げている。そして政治を支配し、国民に負担増を強いている。「今こそ第二の解体が必要ではないか」──元内閣官房参与、藤井聡氏がその方法論を解説する。
「歳入庁」の創設で“景気より増税”を阻止せよ
「財務省解体」といっても、解体してなくしてしまうというわけではありません。「歳入庁」の創設というのが有力な方法として挙げられています。
財務省は今、税金を取る「歳入予算」の部門と、「支出予算」を決める部門という2つの権力を持っている。この二大権力を同時に持っていると、たとえば防衛増税のように特定の予算を増やすことと、そのための増税を1つの役所で決めることができるわけです。
これらを分離することで、財務省の税制や財政が大きく健全化するのではないかと期待されます。
海外では、特定の省庁が強力な政治権限を持つことを回避する仕組みがちゃんとあります。
米国や英国は徴税権と予算編成権を持つ組織を分けているし、イタリアやフランスのように1つの官庁が担当している国もありますが、その場合も財政当局には「経済成長させる」という義務を負わせるのが一般的です。
この義務があるから景気を無視して増税したり、歳出カットに走ったりすることなく、経済成長のための減税や財政支出拡大が実行できるのです。
ところが、日本の財務省は「経済成長の義務」を負わされていない。日本の縦割り行政のなかで、経済成長のプランづくりを担うのは内閣府の経済統括官(旧・経済企画庁)ということになっています。財務省が負う事実上の責務は、「財政収支の改善」だけです。そのため、財務省は財政均衡を大義名分に「とにかく増税、とにかく予算カット」を進めてきた。
安倍政権時代の消費税率引き上げの前、私は「景気が悪化するからやめるべきだ」と主張したが、財務省が強行させた。案の定、増税後に経済は減速したが、財務省は増税や予算カットで経済が低迷してもその責任を負わなくていいから、増税を繰り返すわけです。
だからこそ、財務省に2つの権力を持たせ続けてはならない。そのために財務省から税制の企画立案を担当する主税局と、国税庁を完全分離して「歳入庁」として独立させる。そこに厚労省の日本年金機構や全国健康保険協会を統合し、税金と社会保険料の徴収を一括して行なう組織にする。
その際に見落とせないのは自民党税制調査会の役割です。歳入庁を独立させても、徴税権、税務査察権を手放したくない財務省は財務官僚OBが多い税調を通じて歳入庁を実質的にコントロールしようとしてくるでしょう。それなら、税調も財務省から切り離して歳入庁に事務局を行なわせる。税と予算編成権を完全に切り離す。
戦前の日本には「内務省」という強大な官庁がありましたが、戦後、GHQに解体され、建設省(現・国土交通省)、警察庁、旧自治省などに分離されました。1つの役所だった時代は強かったが、現在は国交省と警察庁が手を組んではいない。組織は自動的に動いていくものだから、財務省の組織から歳入部門を切り離すだけで大きな改革になる可能性があるわけです。
【プロフィール】
藤井聡(ふじい・さとし)/1968年、奈良県生まれ。元内閣官房参与。京都大学工学部卒、同大学院修了。京都大学大学院工学研究科教授。2012年から2018年まで安倍内閣内閣官房参与。『表現者クライテリオン』編集長。
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※週刊ポスト2025年3月28日・4月4日号